あらすじ
プロジェクトマネジメントには、世界標準の知識体系ガイドであるPMBOKがある。このガイドは体系的な知識を提供しているが、それだけを知っていても、現場での様々なトラブルに対処できないことがある。
そのため、実践的な経験に基づく本書の内容が役立つ。著者は数々のプロジェクトで「火消し屋」として活躍しており、その経験からプロジェクトマネジメントの火消しセオリーを86のシチュエーション別に解説している。
プロジェクトを開始する前から確実にわかっていることは、「間違いなく何かが起きる」ということだ。その後、それが炎上につながるかどうかは、小さな火種を素早く発見し、タイムリーに鎮火できるかどうかにかかっている。
私もプロジェクトマネージャーとして数多くのプロジェクトに携わってきた経験がありますが、本書で紹介されている86の具体的シチュエーションに基づいて解説されているセオリーは共感する点が多かったです。
例えば、セオリー02「最初に読むべき重要資料4点セット」として紹介されているプロジェクト計画書、体制図、課題管理表、進捗報告資料は、自分自身もプロジェクトマネジメントの必須ドキュメントとしてなくてはならないものでした。逆に言えば、炎上するプロジェクトではこれらのドキュメントが欠落していたり、その運用ルールが徹底されていないことが多いです。
また、現状把握や発生した問題の要因整理のためにクライアント関係者へヒアリングを行うことも少なくありませんが、セオリー09「的確な聴取手法『タテヨコ・ヒアリング』」やセオリー10「ヒアリングの『3つの落とし穴』を避ける」は実践的なテクニックとして大いにプロジェクトの現場で活用できるものです。ある人から聞いた言葉は事実とは限らないので、掘り下げて質問したり、その人の立場や心理状態を推し量ったり、別の人へもヒアリングすることでより確かな事実にたどり着けるはずです。
次に読む本
議論のレッスン(福澤一吉)
普段の人との話し合いや仕事での会議などで、話が噛み合わずにイライラさせられたことがある人は多いであろう。こうした場合、その場の雰囲気や空気を読んで何となく合意形成したかのように事を進めているケースが多いのではないだろうか。しかし、これでは本質的な相互理解や問題解決にはつながらない。
そこで重要となるのが本書の主題である「議論」のモデルとルールへの共通理解である。議論とは「論証を基礎単位として話し合う」ことであり、大きく主張、根拠、論拠という要素に分解できる。そこには考えるプロセスが必須となる。
議論のモデルを深く理解することで、世の中の事象に対する自分の見方が大きく変化し、議論の内容についての知識と議論の構造の吟味を分けて理解できようになる。また、普段の仕事での議論をまとめていく力も深まるであろう。
ストレスの要因の多くは人間関係にあり、その根底に相互理解の難しさが存在します。なぜ相互理解が難しいのか、別の言葉でいうとなぜ話が噛み合わず感情的にもつれにつながってしまうのか。
また、なぜ様々な意見やアイデアをぶつけ合って創造的でチャレンジングな取り組みを推進していくことが難しいのか。
これらの事象の根底には、覚えることを中心に教育され、ユニークな意見を尊重し合って議論を深めることをしてこなかった日本社会の教育問題があるように思います。
本書で紹介されているトゥールミンの議論モデルは、主張、根拠、論拠という3要素を中心としています。さらに、議論の信憑性の程度を示す3つの要素(論拠の「裏付け」、根拠や論拠の確からしさを表す「限定語」、主張の保留条件を示す「反証」)を加えた6要素として議論の全体を捉えることで、議論の品質を底上げすることができるでしょう。
おススメポイント
創造的な仕事の多くはプロジェクトベースで進められ、多様なメンバーが集まって議論を深めていくことが求められます。目標の新規性が高く期限が決まっているプロジェクトでは多くの困難やトラブルが発生します。そこで大事になるのが火消しを伴うプロジェクトマネジメント力。その中心になるのがプロジェクトを構成するメンバーとの「議論」の品質です。
こうした観点で今回ご紹介した二冊は、今後ますます日本人が世界で活躍していく上で重要な視座を提供してくれるはずです。
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