台湾の作家、林奕含は、実話をもとにした小説「房思琪の初恋の楽園」を書き、出版から二か月後、自ら命を絶った。
林奕含が自殺した日
房思琪
物語の主人公は房思琪(ファンスーチー)。幼なじみの劉怡婷(リュウイーティン)とともに、塾講師の李国華(リーグォファ)に国語を学ぶ。
はじめは房思琪と劉怡婷と二人で李国華の家に行っていたが、あるとき、李国華は、一人ずつのほうが指導に専念できる、と別々の日に来させるようにする。房思琪は、中学生のとき、李国華に誘惑され、性的な関係を強要される。
房思琪は誰にも相談できず、李国華との関係を続ける。「私は先生を愛している。先生が私を愛してくれるなら、これは恋愛だ。」と自分に言い聞かせる。
李国華
妻も娘もいるが、塾講師という立場を利用して、女子学生と性的な関係を持つ。房思琪の前にも関係を持った女生徒がいたが、房思琪と関係を持つようになったら、その女生徒は捨てる。
女生徒の親から苦情が入るが、「私は娘さんに誘惑された、間違いだった」と上手く言い訳して立ち回る。
許伊紋
許伊紋(シューイーウェン)は、富豪の銭一維(チェンイーウェイ)と結婚する。伊紋は、一維のDV(ドメスティックバイオレンス)に苦しめられる。
妊娠するも、DVが原因で流産してしまう。
房思琪が、誰にも相談できなかったのが、あまりにも可哀そうでした。
李国華、行動はとても卑劣ですが、国語教師だけあって、彼の言葉は美しいんですね。その対比が凄いです。
詩的な表現は美しいですね。たとえば
「天井が波打って海のように鳴いている」(p37)
「色とりどりの熱帯魚のようだった」(p47)
「岩石が湧き水の中から勢いよく飛び出すように」(p222)
※ページ番号は単行本版のもの
美しい表現ですが、描かれるのは地獄絵図。とても辛いです。
房思琪は精神病院へ
房思琪は、李国華に強姦されるときは、幽体離脱のような状態になって、ほぼ無抵抗。あるとき、幽体離脱のままのような状態になってしまい、精神病院へ入院することになる。
李国華はのうのうと
一方の李国華は、のうのうと塾講師を続ける。
李国華が、円卓で優雅に食事をするラスト。印象に残るシーンでした。
物語冒頭も会食のシーンでした。冒頭とラストの対比が見事です。
描かれる世界は残酷です。房思琪はもちろんですが、許伊紋も辛い目にあいます。李国華の視点で書かれる場面では、性目的な心情を露わに描くなど、読む者への衝撃は大きいです。
一方で、随所に美しく詩的な表現が用いられています。地の文も、登場人物のセリフも。翻訳で読んでもこれだけ感じるのですから、著者の文芸的なセンスは凄いのだろうと思います。
救いのない、辛い物語ですが、この作品は間違いなく素晴らしい。
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