『人新世の「資本論」』(斎藤幸平)の次に読む本

あらすじ

2020年の話題の新書を紹介します。この本のタイトルの「人新世」とは、地質学的に見た今の地球の年代を表す名称です。コンクリートなどの人間の活動の痕跡が、地球の表面を覆いつくした年代という意味です。今問題となっているように、「人新世」の環境危機、特に気候変動は、取り返しのつかないことろまで来ています。

著者は、このような危機的状況に陥ったのは、資本主義の際限ない利益追求が原因であると指摘します。資本主義は、常に搾取の対象となる「外部」をつくりだし、負担を外部に押し付けてきました。資本主義・グローバル社会において、外部(グローバル・サウス)とは、先進国の「クリーン」で豊かな生活を支えるために低賃金で働き、環境の悪化を押し付けられる途上国です。そして今このシステムは限界を迎えています。

ニュースでよく見るように、そのような気候変動対策として、SDGsやグリーン・ニューディール政策などが注目されています。しかし著者は、これらは資本主義の枠組みのなかで行われるものに過ぎず、気候変動を防ぐには資本主義を脱する必要があると言います。ではどうするのか?著者は、その答えがマルクスにあると言いま

あまどく
あまどく

今更マルクス?時代遅れでは?と思う人も多いと思います。しかし、今、世界では、マルクスの晩年の研究ノートが注目を浴びており、今まで知られていなかったマルクスの思想を再発見するプロジェクトが進行しているそうです。著者は、この晩年のマルクスの思想に着目し、資本主義に代わるコンセプトである「脱成長コミュニズム」を提唱します。

次に読む本

『砂と人類:いかにして砂が文明を変容させたか』(ヴィンスバイザー)

最もありふれた固体であり、現代文明の土台として最も重要な物質である「砂」に注目し、人類の営みを見た本です。僕らの生活に砂は欠かせません。スマホの画面や窓のガラスは、最もありふれた砂である石英(シリカ)から形成されます。スマホを動かすシリコンチップも、純度の高い石英(ケイ素)が原料です。そして、何より「コンクリート」です。砂利や砂をセメントで固めたコンクリートは、材料が供給のしやすく、安価で加工が簡単で、耐久性に優れ、白アリもつかないコンクリートは、世界中で主要な建築素材となりました。

しかし、信じられないかもしれませんが、僕らは利用可能な砂を使い果たし始めています。砂の需要は急増し、今や人間が全世界で消費する砂利と砂の量は年間500億トン(カルフォルニア州全土を十分に覆うことができる量)になるといいます。天然資源である砂が形成されるサイクルは、数億年もかかりますが、人類はこれを大きく上回るペースで砂を採取しています。これにより、今では世界各地の砂浜の砂も不足しているそうです。

また、砂は天然ガスの採掘にも多く使われます。シェールガスを得るための硬い岩盤層に孔を砕くのに、化学物質と砂を混ぜた水を高圧で噴射する「フラッキング」と呼ばれる手法が用いられるためです。これには大量の地下水と砂が使われます。「フラッキング」に使われる砂の量は急増しており、資源の枯渇や水の汚染、周辺の人々の健康に関する問題を抱えています。

あまどく
あまどく

『人新世の資本論』は、資本主義社会における外部(グローバル・サウス)への環境負荷の転嫁を問題視しています。先進国のデジタル化された生活を支えるためには、途上国での、劣悪な環境で危険が伴うレアアースの採掘が必要です。しかし負荷を外部化する資本主義のシステムでは、その負荷は見えないことにされてしまいます。

『砂と人類』では、このような負荷の外部の転嫁が、最も身近な存在である「砂」のレベルでも起こっていることを知ることができます。

人は、ガソリンという資源が尽きると思えば、技術を発達させてシェールガスという新たな資源に注目します。しかし、その採掘のために、砂という最もありふれた資源の枯渇、水の汚染、周辺の人々の健康の悪化という、新たな負荷を外部に押し付けることになります。

このように、上記2冊は、環境危機を身近なものとして考えるのに良い組み合わせであると思います。




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