あらすじ
「人々を靡かせる物語」をつくることに特化した生成AI・エクスマキナを構築するために始まった政府の極秘プロジェクト。
堅牢な環境で進められていたはずのエクスマキナ構築であったが、いつのまにか流出事件が発生してしまう。
多くの人が「人々を靡かせる」ことができるようになったことで、世界を巻き込む事件が勃発する。

生成AIの流出が核を巡る事件まで発展していく描写は真に迫っており、終始緊張感がある。
登場人物ごとの個性もよく表現されており、それぞれの行動原理が伝わる描写となっている。
帯コメントではミステリとして紹介されているが、ミステリ要素はおまけ程度であり、生成AIから始まる群像劇として読むのが適切であろう。
舞台装置となるAI、核といった技術については丁寧な説明がなされており、正誤については私は判断できないが、少なくとも本作内では技術とストーリーが矛盾なく融合している。丁寧すぎるあまり理解が追いつかない部分はあり、私自身読み飛ばしてしまった部分はあったが、ストーリーには差し支えないためそこは安心してもらいたい。
一方で、プロジェクトの運営体制については不自然さが目についた。仮にエクスマキナ構築プロジェクトが発足したとして、若手議員に一任されるとは思えず、プロジェクトメンバーもスタートアップ企業の代表、代表の親族、元同僚と選出に偏りがあるため不自然さが拭えない。
また、エクスマキナを稼働させるサーバールーム内でのみ作業をすることも普通はありえない。極秘プロジェクトであっても通常は別室があるのが自然であろう。個人的にはサーバールームに食べ物を持ち込むことだけは「ダメ絶対」であった。
次に読む本
「虹を待つ彼女」(逸木裕)
主人公・工藤は人工知能を利用した対話型AIサービス「クリフト」の開発エンジニアをしている。クリフトのアップデートのため故人を再現するプロジェクトが始動することになり、そのプロトタイプとしてかつて謎の自殺を遂げた女性・水科晴が選ばれた。工藤は晴の再現に必要な情報を集めるため調査を開始する。

謎に包まれた晴の存在により全体的にダークな雰囲気を醸している。加えて晴に魅せられた人物たちが晴に執着していく狂気がサイコスリラー的なスパイスとなっており、単なるミステリに止まらないところが本作の魅力である。
2016年の作品で現在ほどAIが広く利用されていなかった時代に、現在の生成AIに近いクリフトの設定で勝負しているところも面白い。物語のスタート地点がクリフトであるが、クリフトが単なる事件の発端にとどまらず、物語の進行にも役割を果たしている点も評価したい。ストーリーランドで登場したAI「アルコ」と比較するとフィクション要素はやや強いが、ストーリーに必要な舞台装置として強く存在感を放っている。
謎解きに関しては張り込みのような力技やこじつけ的な閃きが多いところは否めない。
一方で心理描写のリアルさが特徴的で、初めは精神的にゆとりがあった工藤が晴に傾倒するにつれて余裕をなくしていく様は先にも述べたとおりある種ホラーである。
また、晴と唯一親しかったとされる人物・雨の苦悩や葛藤も痛く響く。
細かいところではあるが、工藤が所属する会社の営業部門と開発部門の対立などもあるあると思わせてくれて、フィクションとリアルさの融合が本作を「読ませる」ための重要基盤となっている。
ストーリー、提示される謎ともに比較的シンプルなつくりであるため、真相を知った状態でも何度もストーリーを楽しむことができる。長く「この本面白いよね」と言いたくなる作品である。
おススメポイント

同じAIをテーマとした小説であるが、読み味が異なる作品を選定。
「ストーリーランド」はAIを起点に世界を巻き込む大事件に発展していく発散的な物語であるが、「虹を待つ彼女」ではAIを介して一人の人物の謎に迫っていく収束する物語と言える。
また、「虹を待つ彼女」では技術的な説明が必要最小限に抑えられている。補助的な効果として、「ストーリーランド」でAIに関する詳細な説明に触れた後だからこそ、両作品の描写の違いも楽しめるであろう。
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