あらすじ
それまでの常識では考えられない理由で地表の気温が徐々に低下し、やがて氷河期に突入することが判明した近未来の地球。
このままでは全世界にいる80億人もの人類はもちろん、すべての動植物が絶滅する。全世界の危機を救うため、ある人物が前代未聞のミッションである「プロジェクト・ヘイル・メアリー」に身を投じる。
地球上の全生物が滅亡するまで、残された時間はわずか30年。あまりに危険なミッションの行く末はいかに!?

例えば、デビュー作の『火星の人』の舞台は読んで字のごとく火星、そして第2長編に当たる『アルテミス』では、現実の世界でも建造計画が進行している人類史上初となる月面都市「アルテミス」を舞台にスケールの大きな物語が展開されてきました。
これまで一貫して、地に足が着かない宇宙を舞台に、前代未聞の事件を描き続けてきたSF作家であるアンディ・ウィアーは、本書で読者をどのような世界へ連れて行ってくれるのでしょうか。
怒られるかもしれませんが、この点はあえて伏せます。
スケールの大きな物語は、まず、主人公のライランド・グレースが、見知らぬ空間で昏睡状態から目覚めるという状況からスタートします。
この時、彼はあらゆる記憶を失っており、自分の名前すらわからないどころか、自分の置かれている状況がまったくわからないという状況なのです。
この緊迫したシチュエーションを読者にも味わってほしいので、彼がなぜ記憶を失っているのか、そしてどのような状況にあるのかについてもあえて伏せます。
肝心の内容を伏せてばかりで「本気でレビューするつもりがあるのか!?」と言われそうですが、壮大なSFでありながらミステリー要素も色濃い作品であるため、軽率なネタバレは避けたいのです。
予備知識のない状態で読み始める方にとって、特に冒頭はやきもきする部分が多いでしょうが、少しずついろいろな謎が明かされて行くにつれ、ページをめくる手が止まらなくなる作品です。
ちなみに、ネタバレにならないおまけのコメントをちょっとだけ。
主人公の口癖は「オーケイ」で、作中、これでもかというほど繰り返しつぶやいています。
特にピンチの場面こそアドレナリンがドバドバ出まくるようで、このフレーズが増えるような気がするのですが、私がもし彼と同じ立場に置かれたら、果たしてこんな軽口を飛ばす余裕があるだろうかと考えてしまいます。
おそらく、いや絶対にないです(笑)
なお本作は、
監督:フィル・ロード&クリス・ミラー
脚本:ドリュー・ゴダード
主演:ライアン・ゴズリング(ライランド・グレース役)
という強力な布陣で映画化され、2026年3月20日より全国各地で公開中です。
こちらも興味がある方はぜひチェックしてください。
次に読む本
『スタートボタンを押してください ゲームSF傑作選』編:D・H・ウィルソン/J・J・アダムズ
訳:中原尚哉/古沢嘉通
ゲームをテーマにしたSF短編のアンソロジー。
ひと言で「ゲーム」と表現しても、その単語には様々なニュアンスが含まれており、自由度の高い「SF」というジャンルとの相性の良さがうかがえます。
『紙の動物園』などをきっかけに日本でも注目度を高めたケン・リュウ
映画化、アニメ化されて大きな話題を呼んだ『All You Need Is Kill』の桜坂洋ら、
映画化もされた『火星の人』で大ブレイクを果たしたアンディ・ウィアーなど
現代SFを牽引する豪華な執筆陣が一堂に会しました。
今回、特に紹介したいのは、アンディ・ウィアーによるショート・ショート『ツウォリア』です。
主人公の貧乏ITエンジニア・ジェイクがスピード違反で切符を切られたため罰金を納めようとしますが、なぜか、「そもそもあなたが違反をした記録が見当たらない。だから罰金を納める必要がない」と言われてしまいます。
これはどういうことかと首をひねっていると、今度は「ツウォリア」を名乗る謎の存在からインスタントメッセージが送られてきます。
送られてきたインスタントメッセージの内容が意味不明だったために無視する主人公ですが、ブロック不可能だという警告が出てしまい、やむを得ず、メッセージの送り主とのやりとりがしばらく続くことになります。
さて、謎のメッセージの送り主はいったい何者で、なぜこのようなことをしたのでしょうか?
予測不可能な結末に思わずうならされます。

もし、PCやスマホなど自分のデバイスに、知らない人から謎のメッセージが送られてきたらどうしますか?
無視をするという方がきっと多いでしょう。それが正しい方法であり、どれだけ無視を決め込んでも悪質なメッセージが止まないなら、専門機関に相談するという手もありそうです。
ところがジェイクにはそれらすべての対処ができませんでした。即座に悪質なハッキングを疑い、おまけに直前まで銀行口座の情報を開示していたため、個人情報の流出を恐れて青ざめます。私が彼の立場であったとしても、同じように青ざめるでしょう。
この物語のポイントは、主人公にインスタントメッセージを送ってきたのは誰か、目的はなにかというところなのですが、このメッセージのやりとりが予測不可能なところに着地するというのも読みどころです。
ショート・ショートですので、これまでアンディ・ウィアーの作品を読んだことがない方にとっては入門にもふさわしい1篇です。
おススメポイント

今回は、ともにアメリカのSF作家であるアンディ・ウィアーの作品を紹介しました。
1冊目の長編は映画化もされた話題作であり、そしてもう1冊は、初めてアンディ・ウィアーの作品に触れる方にもおすすめしたいショート・ショートです。
すでにそれぞれのあらすじや感想でも触れていますが、アンディ・ウィアーは非常にミステリー要素の濃い作品を得意とするエンターテイナーです。だからこそ、できるだけ余計な情報はシャットアウトして、魅力的な主人公と一緒に、奇想天外な謎解きを楽しんでほしいのです。
そのような事情があり、特に1冊目のあらすじについては意図的に不親切な書き方をしました。
どうか怒られませんように。

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