あらすじ
一人の女性が24歳から47歳の間、その日々の暮らしで起きたこと・感じたことをまっすぐな眼差しと言葉で綴ったエッセイ集。
手話や英会話、洋裁やヨガなど、様々なものに興味を持ち、行動を起こす著者の天野典子さん。ゆっくりと…しかし、確実に「自分のもの」にしていく彼女の姿に、生きていくことへの勇気が湧いてきます。
23年の月日をかけて、一人の女性の人生を通し、気付きの波紋・行動の波紋・人生に対する波紋が広がっていく様を美しく映しだす本著。ドラマティックな展開や、胸躍る冒険はありませんが、著者が自らの人生に対して真摯に、そして前向きに向き合う姿が、読み手の心にも優しい波紋となって響いてきます。

「時代を映す鏡」として、昔から多くの人々に愛されている新聞の投稿欄。本書の著者・天野典子さんは13歳の時、初めて投稿した投書が朝日新聞に掲載され、そこから新聞や機関誌に寄稿されてきたそう。
日々の生活の中で感じたこと・思ったことを綴る、「自分」という定点からの世界観測は、人によってこんなにも美しく、しなやかで、強いものなのか…と心揺さぶられます。
個人的には、病院から退院された天野さんに対する、ご主人の細やかな心配りのエピソードがお気に入り。さりげなく行動ができるご主人はもちろん、それを余すことなく感じ取り、受け取り、感動できる天野さんもステキ。お互いを思いあう気持ちに、こちらまで温かくなりました。
同じ経験をしても、人によって感じ方は色々…そして、自分の人生にどう活かせるかも人によって違います。天野さんのような状況に置かれた時、自分はどう反応するだろう…?この本を読んで、自分自身の人生や世界に対する向き合い方について考えさせられました。振り返って見えてくるのは「言い訳」や「逃げ」の言葉ばかり…今の生活に対する不安や不満は、今までの生き方が招いた結果のような気がしてきました。
読んでいて心打たれたのは、辛いこと・苦しいことも包み隠さず、美化もせず、その時々の心の変化として丁寧に綴る天野さんのモノを書く姿勢。世界に対し心を開き、些細な迷いや揺らぎも、あますことなく拾っておられます。この言語化の作業は、ある種の覚悟がないとできないのではないでしょうか。その誠実さにこちらの心も開かれ、なんだか素直な気持ちになって、ちょっと自省します。
読み終わって本を閉じた時、この「波紋を掬う」というタイトルの秀逸さに、また心が震えます。そして、自らの「波紋」に心を向け、日々を丁寧に生きたいと思うのです。
次に読む本
102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方(石井哲代)
広島県尾道市の山あいの町で、畑仕事をしながら一人暮らしを楽しむ102歳のおばあちゃん・石井哲代さん初のフォトエッセイ。
彼女は100歳を超えても元気な姿を「中国新聞」やテレビに紹介されて話題に。そんな哲代おばあちゃんの生きる智恵…「長生きできる八つの習慣」「生き方上手になる五つの心得」「私らしくいるための五カ条」などが紹介されています。
記者の取材に、飾ることなく、今あるがままの言葉を紡ぐ哲代おばあちゃん。小学校の先生という長いキャリアを持つ彼女の言葉は、私たちの心に優しく寄り添いながら、良い変化を促してくれます。
年寄りは若い人の見本にならんといけん。老いても楽しそうだなぁって思ってもらえるよう、にこやかに。社会のムードメーカーっていうんでしょうか。
人生100年時代…ともすれば見えない未来への不安に押しつぶされそうになる私たちに、哲代おばあちゃんの数々の名言が刺さります。生きることに勇気が湧いてくる一冊です。

いやー、本当に!
なんてチャーミングなおばあちゃん!!
桜の花を見て、誕生日を迎えて、講演会の講師になって…そして本の出版が決まって。そのたびに「わおわお!」と全身で喜びを表現されています。
それは「生き方上手になる五つの心得」のひとつ、「喜びの表現は大きく」。周りの人の気持ちまで明るくするこの小さな魔法は、私も実践していきたいなぁ‥と思いました。
104歳の時にはその姿が映画化され、スクリーンデビューも果たした哲代おばあちゃん。現在御年105歳…さすがに一人暮らしは厳しく、施設や病院を行き来することも多くなられたようですが、その生き様には今も多くの人が励まされています。
「100歳を超えて一人暮らし」…最初は凄く風格ある刀自をイメージしていましたが、その口から出てくる言葉はとてもユーモアにあふれ、笑顔が可愛らしく魅力的。
ときどき現れる「弱気の虫」と戦いながら、そして、先に泉下の客となったご主人・良英さんをうら若き乙女のように慕いながら、生きることを楽しんでおられます。
等身大の自分を大事に、今ある環境に感謝し、自らの生命を全身全霊で味わおうとする哲代おばあちゃん。この本を読んで、私は「生きること」の前提を見直しました。
年をとれば当然、出来なくなることも増えてくる…。だけど、それを追い縋ることなく受け入れ、まだ自分にできることを愛おしみ、自らを褒めながら進んでいく姿に、満足な人生を送るヒントが見えてくるようです。
半世紀近く使い込んだ三つまたの鍬を大事に使い、「何かしていないと人間もさびるでしょ。体も頭も気持ちも、使い続けているとさびないの。」と語る哲代おばあちゃん。
読み終わった後は少し視線が上向いて、「ようし!これから頑張るぞ!」という気持ちにしてくれます。
おススメポイント

5年日記の4年目を書いています。1年前・2年前…昔書いた日記を見返すと、これが結構似たことを書いている(笑)。人間というものは、そう簡単に変わるものではないのだな…深い溜息とともにしみじみ実感しています。
そのパーツが集まって出来上がるのが人生…自分という人間を紐解くと、どこまでもフラクタル構造になっていることに気付きます。「私」は「私」に成るべくして成った…環境にもよりますが、それに対する反応も含め、今の自分を作っているのは紛れもなく自分自身です。
この2冊の本は、そんな自分を構成するパーツに想いを馳せるきっかけを与えてくれました。
「毎日を丁寧に、前向きに生きる」…言葉にすると簡単ですが、こいつがなかなか難しい。それでも、その積み重ねが結果としてお二人のような「美しい人生」を織り成すのであれば…「日々の心がけを、ちょっと見直してみようかな」と、素直な気持ちでそう思えてくるのです。
お二人に共通して感じられるのが、「誠実さ」と「覚悟」。自分の人生、自分の命に対して真摯に生きることで、結果的に人生の方から応えてくれているように思います。良くも悪くも自分が積み重ねてきたことが、何かをきっかけに顕現する瞬間…喜んで迎え入れるのか、恐怖に打ち震えるのかは、「今」この瞬間への向き合い方にかかっているのかもしれません。
因縁生起…一滴の行為が生む波紋は、他の波紋と重なり、思いもよらない模様を作ることもあるでしょう。そして、別の水面に似た形で再び現れます。その影響は、見えないところで相似の連鎖を繰り返し、場所を変え、時を超え、意外なところで芽吹くことがあるのかも…。
人生はきっと、自分自身が日々描くフラクタルの集積体。同じような模様を少しずつ繰り返し、やがて織り上げる大きなタペストリー。
その模様を少しでも美しくするために、今を大切に丁寧に生きていこう…この2冊の本は、そんな「選択」をそっと後押ししてくれます。
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