あらすじ
本書は、著者が24歳から47歳までの約20年間にわたって綴ったエッセイ集です。
人生の節目ごとに感じた迷いや決意、日常の中での気づきや挑戦が、書かれています。
その間には、東日本大震災やコロナ禍といった社会的な出来事も折り重なり、個人の歩みだけでなく、時代の渦に翻弄されながらも、自らの信じる道を模索し、前に進んでいく姿が記されています。
手話や英会話、ヨガ、ボランティアなど、好奇心の赴くままに行動し続ける筆者の姿には、読む人の心に静かに波紋が広がるような力があります。
人生の大切な時間をどう過ごすのか、自分らしく生きるとはどういうことかを、読む人にそっと問いかけてくれる一冊です。

本書には、著者が歩んできた20年のなかでの出会いや別れ、挑戦と葛藤が丁寧に綴られています。
愛猫や実家の母との関わり、夫の転職、趣味や学びへの挑戦、そして体調不良といった日常の出来事の数々。それらは決して順風満帆なものではなく、ときに困難に立ち向かい、ときに迷いながらも、著者は「自分が信じた道」を歩み続けます。
その姿からは、「今日をどう考え、どう生きるか」という日々の心の持ちようが、やがて人生全体を形づくるのだという気づきを与えてくれました。
印象的だったのは、著者が「一度始めたことは途中で投げ出したくない」と語っていたこと。少しずつでも続けていけば、いつか終わりにたどり着ける。その思いのもと、手話、英会話、翻訳、ボランティアなど多岐にわたる挑戦を、地道に積み重ねていきます。その姿勢は、シンプルながらも揺るぎない強さを感じました。
一方で、39歳のときに著者は「自分の人生の軸となるものが見つかっていない」と振り返ります。
丁寧に、まじめに一日一日を生きてきたはずなのに、「気づけば衰退していた」と感じているのは、いささか厳しい評価と読んでいて思いました。
それでも著者は、自分を責めるのではなく、再び自分自身に問いかけ、模索し続けます。その姿は、真面目さゆえの迷いであり、同時に「挑戦を続ける人の強さ」でもあるのだと感じました。
家庭を支えながら、自分の興味のあることに積極的に取り組み、自分の歩みに誠実であろうとする。
著者の人生は、右往左往しながらも、その都度立ち止まり、「自分とはどうあるべきか」を見つめ直す連続の中にありました。
そして最後には、「人生は“今”の連続である」という気づきに至ります。未来を思い煩うのではなく、「“今、この瞬間”を誠実に生きる」その姿勢に、私自身も深く共感を覚えました。
この本をひとことで言えば「専業主婦が趣味や学びを経て社会とつながっていく物語」かもしれません。けれどもその裏には、日々の出来事に真正面から向き合い、迷いや不安のなかでも「自分を信じて進む」という、深いドラマがあります。
本の中で描かれているのは、たった一人の人生かもしれません。ですが、毎日の出来事の連なりは、読み手それぞれの心にも、波紋のように広がっていくのではないかと感じます。
何気ない日常にこそ、彩りや意味がある。そう気づかせれる、静かで力強い一冊でした。
次に読む本
さみしい夜のページをめくれ(古賀 史健)
中学校3年生のタコジローは、進路や勉強の意味に漠然とした不安を抱えています。
「どうして勉強しなきゃいけないの?」と自分に問いかけながら、心は揺れ動いていました。
あるとき、地元の祭りで、不思議な“ヒトデの占い師”と偶然出会い、「占い」として、本とその本の一節を贈られます。
その一節は、『シーシュポスの神話』からの引用・・・
タコジローは、自分の状況が無限に続くようなシーシュポスの地獄と重なるように感じ、深い落胆に陥ります。
果たして、彼はその苦しさや重圧から脱出できるのでしょうか?

人には、悩みがあります。
自分で自覚できる悩みもあれば、まだ悩みという言葉にさえたどり着いていない、漠然とした苦しさもあります。ところが、それが自分にとっては初めてのことでも、すでに他の誰かは同じようなことで悩み、乗り越えていることもあるのです。
物語の序盤で、主人公・タコジローは、占い師から贈られた『シーシュポスの神話』に出会います。
その“地獄”のような世界に、自分自身の状況を重ね合わせ、逃れられないような苦しさの中で答えを探し始めます。主人公が、果たしてこの壮大な問いにどのように向き合い、どんな答えを見つけていくのか。読み進めるうちに、その過程が少しずつ解き明かされていきます。
本は、昔から多くの人が書き残してきたものであり、その数はほぼ無限に存在します。
それは、読者と同じように悩み、苦しみ、そこから抜け出そうとした人々の記録でもあります。
つまり、今自分が抱えている問題には、すでに誰かが似たような悩みを経験し、それをどう乗り越えたのかが、本の中に書かれていることがあるのです。
「あなたは本を選ぶとき、『何』を選んでいるのでしょう?」
そう問われたとき、本書はその答えを静かに提示してくれます。
そして、自分で選び取ってきた本たちを本棚に並べて眺めたとき、その本棚から自分の考えや希望、悩みなどがにじみ出ていることに、私はあらためて気づかされました。
主人公の悩みは、かつて私自身が学生の頃に感じていたものととてもよく似ていました。
当時の私は、明確な答えを見つけられないまま大人になり、いつしかその悩みの存在すら忘れてしまっていたように思います。
だからこそ、物語ではありますが、主人公は早い時期に、自分の悩みの正体に気づき、その糸口を見つけることができたことは、とても幸運なことだと感じました。
この悩みから脱出した主人公は、これから先の困難も、今回の経験をもとになんとか解決し、進んでいけるのだろう。そう思わずにはいられませんでした。
答えをうまく導くことができない悩みを抱えたとき、解決への道しるべをくれる良い一冊だと思いました。
おススメポイント

人生には、思い通りにならないことや、うまくいかないことがつきものです。
自分の行動の結果であれば、しかたなく、納得できる部分もありますが、自分ではどうすることもできない状況下での「思い通りにならなさ」は、ときに私たちに強い不快感や戸惑いをもたらします。
今回紹介した2冊は、それぞれ異なる視点から、そうした状況に対して前向きに進んでいく姿を描いました。
『波紋を掬う』では、専業主婦という立場にありながらも、時代の移り変わりや災害という社会的変化の中で、自分を見失うことなく、自身の性格と可能性を信じて少しずつ行動を重ねていくことで、結果として道が開け、多くのポジティブな出来事が舞い込んできました。
一方、『さみしい夜のページをめくれ』では、逃れることのできないような絶望の中に立たされた主人公が、本を通して人生の先輩たちが残した言葉に出会い、そこから自らの悩みと向き合い、乗り越えていく姿が描かれていました。
これからも、私たちの周りには予期せぬ出来事が起こることでしょう。けれど、いつの時代でも未来は不確かであり、その中で人はそれぞれの知恵や信念を頼りに、道を切り拓いてきました。
私たちが迷ったとき、悩んだとき、今回紹介した2冊はきっと、心の琴線に触れる何かを与えてくれると思います。
迷ったとき、悩んだときには、ぜひこの2冊の扉を開いてみてください。
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