あらすじ
野宮薫子は夫に突然離婚され、仕事とアルコール漬けの日々を送っていた。そんな時、最愛の弟が急死してしまう。薫子は弟の遺志に従い、弟の元恋人の小野寺せつなと出会う。
せつなは家事代行サービス会社『カフネ』で、利用者に料理を作る仕事をしていた。
荒んだ生活をしていた薫子は、せつなの手料理で癒される。
やがてせつなは、薫子に『カフネ』のボランティア活動を手伝うことを提案する。

冒頭せつなと言い争う薫子は、イライラしていてとにかく嫌な印象である。しかし弟の急死や突然の離婚以外にも、不妊治療が上手くいかなかった過去や、両親への複雑な思いなど、薫子の苦悩が徐々に明かされて納得した。
常に淡々と正論を言い放つせつなとの言い合いが、物語が進むにつれて、段々とお互いを思い遣っているような温かさを含んだものに変化していくのが素敵だ。2人の会話も面白い。
面白いと言えば薫子のキャラクターで、全くいい印象のなかった冒頭とは打って変わって、読み終える頃には彼女の応援団のような気持ちになっていた。とにかく真面目で常に全力投球、生きることに一生懸命なのだ。
『カフネ』のボランティア活動を通して、生活に困窮する様々な人たちも登場する。温かい手料理と片付いた部屋が、たとえ一時のことであってもどれだけ疲れを癒してくれるのか、痛感した。
悩みを抱えるのは『カフネ』のサービス利用者だけではない。薫子はもちろん、せつなや急死した弟にも大きな秘密があったことが最後に明かされる。
何度も涙するシーンがあったが、読後はとても清々しい気分になれた。
次に読む本
『宙ごはん』町田そのこ
保育園年長の宙は、自分を産んでくれたのが『お母さん』、そして育ててくれているのは『ママ』で、2つは全く別のものだと思っていた。
愛情たっぷりに育ててくれる『ママ』である風海と、美しく素敵な『お母さん』である花野がいて、宙は幸せに暮らしていた。
しかし小学校にあがると風海は夫の海外赴任に同行してシンガポールへ行ってしまう。宙は初めて花野と一緒に暮らすことになったが、花野は全く料理が出来ないと言い放つ。食事の世話は全てレストラン料理人の佐伯がすることになったのだが…

この本には、花野と風海をはじめとし、様々な母親が登場する。
宙は、実際一緒に暮らすようになると、幼い頃憧れだった花野が、子供を愛してる守る『お母さん』ではなく、自分自身が愛されて守られる『こども』のままの人だと気付く。「こういう人だ」と思っていた花野や風海にまで、別の顔があることも思い知らされる。
同級生のマリーが言った「今の世の中にはいろんなつながりの『家族』ができてる。『母親』も『子供』もない。助け合って生きていく集団のことを指す」というセリフにはハッとした。親子がお互いに「こうあるべき」「こういてほしい」という姿にとらわれず、いい意味で期待しすぎずに『家族』として助け合えたなら、楽に生きられるかもしれない。
この本では、宙の成長に伴い、親の印象もどんどん変わっていく。子供だけではなく、母親たちも成長しているのだという描き方が面白い。
そして、そんな彼女達を癒してくれるのが佐伯の作る料理であり、物語において重要な役割を担っている。
温かい料理が持つ力の偉大さと、幾つになっても、人は試行錯誤しながら変わり、成長出来るのだということを実感させてくれる小説だ。
おススメポイント

「思いがこもった料理は、人を生かしてくれる」
まさにそのことを思い出させてくれる2冊。
例えば家族に食事を作ったり、掃除をしたり、自分の取るに足らない行動でも、誰かの役に立つことがあるなら、生きる意味がある。そして、人生は無常で、自分も幾つになっても成長出来るかもしれないと思えて、嬉しくなった。
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