「夜が明ける」西加奈子の次に読む本は

あらすじ

「俺」は高校で「アキ」こと深沢暁と出会う。
アキは191センチという長身に加え、顔には既に深い皺が刻まれており、入学式から異彩を放っていた。
そんな彼に「俺」は「アキ・マケライネン」というフィンランドの俳優に似ていると話しかけ、そこからアキの人生は変わり出す。
2人の青年の人生を通して、貧困や虐待など、日本の社会問題について描いた物語。

著者の文章は、ひたすら直球で、読者に生々しく突き刺さってくる。
母親から虐待を受けていたアキは、「俺」に似ていると言われたアキ・マケライネンになろうとする。そうすることで、違う自分になろうとしたのだろうか。
学校で徐々に注目を浴びて人気者となったアキが、貧困と虐待の問題を抱えていることを同級生たちは知らない。

かたや「俺」はごく普通の家庭に育ち、学費の心配などしたこともない。しかし突然の父の死により、働きながら大学へ通うことを余儀なくされる。
親友だった2人は、成長するにつれさらに過酷な状況に身を置くこととなり、連絡を取らなくなる。

2人に共通しているのは、人に助けを求められないということ。「助けてほしい」の一言がどうしても言えない。
2人の境遇が悲惨すぎて目を背けたくなる場面もあるが、ラストは希望が垣間見える。
いつだって「夜が明ける」のだ。

次に読む本

『砂に埋もれる犬』桐野夏生

父親に捨てられ、母親の恋人の家を転々として暮らす優真。母親は遊び歩き、何日も家に帰ってこない。小学校にも通えず、食事もままならない中、コンビニ店主の目加田が優真に手を差し伸べる。
やがて目加田は優真の里親となり、一緒に暮らすようになるのだが…。

ネグレクトによって想像を超えた生活を送って来た優真。そんな彼に救いの手を差し伸べる目加田は、重い障害を持った娘を育てる父親で、妻と協力しながら必死に生きている。
やがて娘が亡くなり、2人は中学生となった優真の里親となる。

ショックだったのは、貧困や虐待から救い出せば、その子供はもう何の心配もいらないというわけではないということだ。
親からの愛情を受けずにほったらかされて育った優真は、食事や入浴、歯を磨くといった当たり前のような習慣が理解できない。
目加田が徐々に優真に苛立ちを見せる様子はリアリティがあり、著者の筆力に改めて感心させられた。

そして、母親に憎しみを抱いていた優真は、女性に対して歪んだ感情を膨らませていく。学校でも人との距離感が上手く取れず、友人が出来ない。生活習慣を口うるさく言う目加田にも苛立ちを覚え、以前の生活が懐かしいとさえ思ってしまう。

どんどん捻れていく優真の心が恐ろしく、絶望的にすら思えるが、ラストは希望ともとれる描写があり、ほっとした。

おススメポイント

どちらも子供の貧困と虐待をテーマとしている。
虐待する親は自身も虐待されていたケースが多いと言う。
その負の連鎖をどうやって断ち切ったらいいのか。答えはわからないが、この2冊を読んで考えさせられた。
ここに出てくるような子供がいなくなることを祈る。


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