主要登場人物紹介・読みどころ
主人公:二ノ宮こと葉
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初恋を寄せていた幼馴染の結婚式に参列した時に出会ったスピーチに感動したのちに、ある師匠の下で、ときとして社会を変え得る職業を極める道に進む。初恋の行方、恋の末路にも気掛かりな展開に、美しい言葉をメモしながら読み進めた。
新婚夫婦・こと葉の想われびとであり、幼馴染:厚志くん、恵里ちゃん
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ネタバレになるので書けませんが、本作品の終盤で、厚志はある肩書きの立場で聴衆の前で語りかけるシーンがある。
しかし、その道中で哀しいハプニングが起きてしまう。
国を支える立場の政界の皆さんにも当然、大切な家族がいて出産や育児など私たちと同じ、ひとりの人間としてプライベートな暮らしを生きている。
そのことをつい、私たちは忘れがちですが、
もっと医師の担い手がいたら、、
介護士がいたら、、
病床があったら、、
日本の医療制度は世界から見ると、とても素晴らしくよく出来た制度のようですが、時代は移り変わるように、保険制度も時代に合わせてニーズに合うシステムに作り直していく必要がある。
先例にこだわり、救えなかった命があったなら…
胸が痛む社会的背景も学べました。学生さんにも読んでもらいたいと思える内容でした。
結婚と肩書き・仕事を両輪で守る。それが理想ですが、現実は残酷であり、変えられない運命もある。
けれど、厚志くんが放ったスピーチが、目の前のひとの心を変える・・・?
その裏にいた存在は…
伝説のスピーチライター:久遠久美
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あるきっかけで名もなき頃から、突如スピーチライターという職業が舞い込み、言葉の持つ不思議な魔力に魅せられていく。
本著末尾で、久美さんの尊敬するひとのある言葉が、難所にパニックになること葉の涙を、新たな一歩に変えたシーンが印象的でした。
久美さんがこと葉に放ったこの言葉が本作の最大名言であり、クライマックスといえるでしょう。
(けれど現実で、もし自分の危機にこんな理性的に詩のような言葉を言われたら良い言葉なのは分かるけど言葉じゃなく今すぐ駆けつけてほしいのに、と怒りそうな気はしましたが。笑
ここはあくまで、スピーチライターという存在を描いたフィクション小説を愉しむ気持ちで、ぜひ)
最後に、ひとの心を掴み続けるスピーチライターの流儀が滲み出たフレーズが以下の、二つ。
ぜひ本作とともに、この二つの文脈の違いについて考えてみていただきたいです^^
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1.言葉は、ときとして世の中を変える力を持つ
2.スピーチは、ときとして世界を変えることもある
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一見、同じように聴こえて、小さな文脈の違いで、
スピーチライターとして
もしくは
仕事人として、どんな構えで臨んでいるのか解釈が異なることもあること。
わたしは、2.の心がけで引き続き、文筆を生業にしてゆけたら…いいな!
言葉ひとつひとつの奥深さや美しさ。
あらゆる芸術に造詣がある原田マハさんだからこそ!成せるストーリーといえそうです。
あらすじ
物語は参列した幼馴染の結婚式で披露された強烈に眠いスピーチに、うとうとした主人公・こと葉はスープ皿に頭をダイブしてしまう、ハプニングからはじまる。
しかし、この散々な出来事が、こと葉の夢の扉を開けるチャンスとなっていきます。
その祝辞のあとに述べられた二つ目のスピーチに、こと葉は耳を奪われます。
その原稿を書いたのがのちの、スピーチライターの師匠、久遠久美だ。
親友とともにOLを無難に過ごしてきた、こと葉にとって、まさにこの結婚式のchangeがchanceとなる。
たったひとりのスピーチをきっかけに困難を乗り越えながらたくましく、強く成長していくかっこいい働く女性のサクセスストーリーです。
あらゆる世界で性別問わず活躍するひとが増えている現代ではマイノリティーだったとしても、仕事が人間をつくるように、何かひとつに心を捧げた先に働く喜びが生まれることがある。
改めて、”働くっていいもんだなぁ”そんな心持ちで仕事に励みたくなりました。
皆さんが響いた言葉は何だったでしょうか。
当時、都内の大好きな歌謡曲が流れるカフェで、マスターの方に勧められ、早三年経ったいま。
やっと読み始めたが、スピーチライターという影の太陽的職業の存在に憧れを改めて。
かの王女、オードリーヘップバーンは愛するとは、愛情をただ言葉にするだけでなく、如何に伝えるか、どのように話すかが大切だ、と語っていましたが、このスピーチライター久遠久美さんが言葉の真髄を魅せてくれました。
スピーチライターに就いていなくても、あらゆるビジネスシーンで、本作品に描かれているスピーチライターの極意が生かされることが多くありました。あわよくば、社会人一年目にこの小説を読んでいたら仕事への姿勢が変わっていたかもしれません。
わたしもひたすらに影であり続けたい。この作品のような太陽的名作の良さが少しでも遍く伝わったら…
読者一人ひとりの感想が答え、と呼べそうです。
本作品に巡り会え、いまのChanceに読めたこと感謝したいです。
さて、とりあえず、一市民としてちゃんと政治について考え、参加しよう。選挙に行こう。そんな気持ちにもなれました。
18歳を迎える前の学生さんにも読んでほしいなぁと思います。少々理解が難しい部分もあるかもしれませんが、お手元に、辞書を片手にぜひ。
心に響いたフレーズ
p.27
『愛せよ。人生において、よきものはそれだけである』
フランスの作家 ジョルジュ サンド
このセリフのあと、本日はお日柄もよく、、
続くスピーチが最高に良い!
どこで挟まれるか、期待して読んだらこの間合いかあ、と。
原田マハさんの文才力、芸当の深さに感服。
p.53
国会議員の演説の台本を担当した、スピーチライター久遠さんに、いっそ党首にならないか、そう尋ねる小山田議員に久美さんが、放つ言葉
『お気持ちは大変ありがたい。けれど党首にはなれません。私は民に語る議員という輝く太陽を存分に輝かせるための影だから。太陽を享受する国民の気持ちに寄り添う、影なんです。
どうですか。こんな贅沢な存在がほかにありますか?』
なんて、控えめながら力強くカッコいいのだろう…
久遠さんはどこまでも自分の仕事としての役割を自負していて、その信念とプロとしての立場に誠実であり、わきまえた覚悟。
改めて国会答弁の会議の見方が変わりそう。
きっと私たちの目にうつるまでにたくさんの影の方たちの苦労の礎のもとに、岸田首相は輝けるのかもしれない。
圧力に負けずに、頑張ってほしい。
p.102
スピーチライター久遠久美さんの秘伝、スピーチにメモはご法度。話し出す前に、五分。
静寂を極める。
そんな師匠の極意を握り締め、感動の友人への祝辞を述べた、こと葉の四つ折りメモを広げた社長は
「これが、あなたのスピーチの秘訣だったのですね」
そこにはたった一文字。ぽつんと書かれていた。
“静”
うーん、予想に反した展開に思わず唸る。
三月のライオン、桐山零くんも平常心を、掛け軸にしてるけれど、緊張が極まるときほど心を穏やかにひと呼吸。
間を置いて、ゆっくり話し始める。
あらゆる場面で大切な極意に感じました。
なにかとざわざわしがちなので、苦手なプレゼンに活かしていきたいです。
p.166
久美さんが放った言葉
「政治家のスピーチ コンセプトを考えるためには素人の感性が必要」
p.233
自分が変わるChance=世の中を変えるChanceでもある
p.238
こと葉「何かひとつ極めるためにはら何かひとつ捨てなくちゃいけない」
閉じた扉から、また新たな鍵が見つかることがあるものですね。
さてわたしは、何を捨てて、どんな世界を迎え入れようか。
新年度はもう、すぐだ。
p.253
「安定した仕事で幸せを叶えるのもいい。けれど、ひとを感動させて幸せにする仕事に就けるのは、もっといい」
どうせ働くなら楽しいほうがいいですね^^
次に読む本
「異邦人(いりびと)」著:原田マハ
続いてご紹介するのは、同じく原田マハさん著書の美術を舞台に繰り広げられる新婚夫婦の生活を描いた美術小説「異邦人(いりびと)」です。
美しい言葉のシャワーを浴びたあとは、街に出て春の名画に触れながら絵画の世界に浸る。
そんな休日にいかがでしょうか?
あらすじ
物語の主人公は、日本を代表する不動産を営む経営者を祖父に持つ31歳の妊娠中の主婦、菜穂と母の強烈な引き合わせにより、半ばお見合い的に結婚した銀座の老舗画廊の跡継ぎである一輝。
そんな二人が、妊娠中の療養のために訪れる京都のホテルのステイケーションで繰り広げられる、あらゆる葛藤(いわゆる妊婦に多いマリッジブルーのようなモヤモヤや不安など)や巡り合うはんなり京都人たちとの付き合いから生まれる新たな感触。
洗練された美術品の数々から生まれる強い磁場のような感嘆体験を通じて
夫婦とは?
愛すること、愛されることとは?
火照る瞬間の源の違いとそれが意味するモノとは?
誰しもが誰かと人生をともにする選択をはじめたときに感じるであろう、些細なモヤや小さな違和感、そして、真実の愛を望む見果てぬ欲望。
そうした日常に起こる人間の感情を、原田マハさんの魅せる美術への深い造詣の表現力で、まるで美術展を巡っているかのような、学芸員さんのエッセイを覗き見してるかのように、ふわっと引き込まれる小説です。
【読書序盤の感想】
序盤から細雪も出てくる辺り、もう既に推し萌ゆ!な愉しさ。
序盤の二章までは、妊婦の療養目的で、訪れる京都の半ば、コロナ禍で自由を制限されるような、複雑な心境のなかでひとりで巡る京都の老舗画廊で、出逢う"刺さる”体験の数々。
わたしが著者の文才力に痺れたのは、以下のフレーズです。
「得体の知れない強い磁力」
「つむじ風のような竜巻」
心の奥底の固定観念が、揺さぶられる体験を原田マハさんは見事な語彙力で豊かに表現されています。
まさに、刺さる体験でした。
美術館での刺さる体験は、後にも先にも、ある瀬戸内の島の美術館で眺めたゴッホの名画の数々でした。
今まで絵の楽しみや感動体験ってよくわからなかったけれど、言葉にならない得体の知れない磁力を生む作品が、名作と呼べるのかもしれない。
最後まで読み終えたときはじめて、異邦人の意味が明かされます。
私も知らない街に移り住んだ時に感じたさもしい感情や趣味オタクゆえについ、オタク愛を熱弁して、空回りしてしまう互いの情熱の対象の違いからの距離感など、主人公に、ときに共感しながら充実した読了感を味わえました。
本著者の作品にはいずれも、モネやゴッホなど美術や編集部を舞台にした作品が数多くあります。
絵画について予備知識がなくても、解説を読む代わりに
「美術館行ってみたいな!あの名画家にはこんな背景があったのか?」と物語の世界観にどっぷり浸かりながら楽しく芸術の引き出しを増やせることが魅力な気がします。
【序盤の読みどころ】
・三章 火照る夜
二章で綴られた、"刺さる"体験
本物語では、幼い頃から美術品に囲まれた家庭で育ち、自らも美術館の副館長を務めるヒロイン・妊婦の菜穂が刺さる瞬間とはいずれも、愛する男とひとつになることや、出産を終え、母になれる喜びでもなく、心と身体が火照るほど昂る刺さる美術品との出逢いから、だと言う。
その事実に、夫の一輝は、哀しみのような、自分との火照る瞬間が意味する違いに葛藤を覚えるまでのストーリー。
きっと夫婦生活というのは、未経験の自分が想像の範囲で考えると、この章で語られている旦那の感情のように、自分にはない感性や価値観に日々気付かされ、時に驚き、時に深くリスペクトしたり、反対に失望したり。
他人同士が合わさり、互いに望む道のなかで人生を分け合うのだから、その不完全さや知らなかった感性に現在地が揺らぐ。
そんな繰り返しの毎日なのでしょうか。
菜穂のように、火照る瞬間が必ずしもパートナーが源でないひとはたくさんいるし、私も多趣味が高じてストライクゾーンはひとより、幅広い。
お互いに揺らぎ合いながらも、思いやりと尊重(リスペクト)を忘れずに広い海を南の島に向かって泳いでゆける。
そんな二人暮らしをしてみたくなりました。
果たして、菜穂、一輝夫妻はどんな結末を迎えるのでしょうか?
ぜひ、行く末を期待しながら
京都旅の物語を楽しんでみてください*^^*
おススメポイント
言葉をただ並べることは容易く、どのようにひとに伝えるか?その難しさを知るのと同じように、絵画もまた、誰にどんな絵を観て何を感じてもらうために、どの作品をどのような魅せ方で仕入れるか?その価値の伝え方で、観る人の受け取り方は変わってくるのかもしれません。
今回、”伝えること”と”感じること”をテーマにした作品を選んでみました。
4月は出逢いの季節でもありますね。
ひととの関わりのなかでどんなことを大切にしていきたいか。
原田マハさんなりの感性があふれた小説で改めて問い直してみる、読書の春も良さそうです♪
皆さんはどちらがお好みですか?*
お日柄のいい、さくら色の公園でゆっくり浸りたい2冊でしょうか。
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