あらすじ
4階の自宅から転落した女子高生の母親は「愛能う限り、大切に育ててきた娘がこんなことになるなんて」と言葉を詰まらせる。この新聞記事を読んだある高校教師は「愛能う限り」という言葉に違和感を感じる。
遡ること11年前の台風の日、幸せに見える家族にある悲劇が起こる。次第に母娘はすれ違い……。
母の手記と娘の回想が交差し浮かび上がる真相。これは事故か自殺か、それとも……。
母親となった全ての女性に母性があるわけではない。それは初めて父親となった者も同じであろう。
この本に出てくる母親は毒親でもなく、虐待をするわけでもない。だが大切な何かが欠けている。良くも悪くも娘は母親の影響を受けて育つ。だからこそ自分勝手なエゴな愛ではなく、無条件な愛を捧げていきたいと改めて思う。家族だから言わなくても分かってくれるではなく、自分の気持ちを言葉で伝えることの大切さを痛感した。
次に読む本
『涙をなくした君に』藤野 恵美著
カウンセラーの橙子は両親の愛を享受出来なかった記憶に抗いながらも、いまだに過去から逃れられないでいる。テニスインストラクターの夫、律と小学一年生の息子、蓮と一見平穏な日々を送っていたが、父が病に冒されやがて再婚することに。様々な感情に揺れ動く橙子は…。
自分は絶対に父や母の様にはならない。夫にも息子にも無償の愛を与えるんだ。そう気を張って毎日を生きている橙子。でも事あるごとに息苦しさを感じてしまう。幼い頃に受けた影響は、自分が親となった時に、自分の意思とは無関係に出てきてしまうものなのだろう。子育てに正解はない。ただ家族を信じるというあたりまえだけど、大切なことを忘れないで過ごしたいものだ。
おススメポイント
母親の本当の愛を受けずに育った『母性』の清佳はやがて母親となる。そして自分がして欲しかった事を子供に与えていこうと考えている。清佳は理想の母親となることが出来るだろうか?タイプが違うが、同じく両親の愛を受けずに育った『涙をなくした君に』の橙子は母親として、過去の呪縛からなかなか逃れることが出来ないまま毎日を過ごしていた。清佳のその後は描かれていないが、おそらく橙子と同じような苦しさを抱える事になるだろう。母親とは、母性とは、深く考えさせられる2冊である。
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