あらすじ
若者世代が映画を倍速で視聴することについて調査し、その理由を考察した本。
著者である稲田豊史さんは、過去に雑誌でDVD作品の紹介をするという仕事をしていたため、倍速視聴にどっぷり浸っていた時期があります。
その後、かつて倍速で観た映画を通常の速度で観て「自分は作品を味わっていなかった」と愕然としたそうです。
その経験もあり、この本は一方的に「倍速視聴はいけない」という立場ではありません。
「なぜ倍速視聴が浸透してしまうのか…」という原因を、探る本になっています。
今は「映画を観る」という行為が
・映像作品を鑑賞する
・コンテンツを消費する
という2つの立場にわかれていると気づかされました。
私の母は家では常時1.3倍速で映画を視聴しています。「ただのアクションシーンは映像を見ながら早送り」とあっさりです。
けれど、映画館で普通に映画を観ることも好きです。
私は、近代文学のブログをやっています。
けれど、あまりにも作品量を読んでいないでビクビクした学生だったので、「教養としてあらすじを知っておくと安心」と思っています。
これは本の例ですが、映画の早送りの理屈とあまり違いはないと思ってます。
自分の周りも、私自身も、いつの間にか視聴方法を普通に使い分けています。
若者の「映画に対する行動」を書いた本ですが、「映画」を取り外して、自分の普段の行動と理由について考えさせられました。
次に読む本
『やりなおし世界文学』津村記久子(著)
ギャツビーって誰? 郵便配達は二度ベルを鳴らしたの?
名前だけは知っていたけど読んだことのない東西の名作92作を、身近に感じられる語り口で作家津村記久子さんが紹介してくれる本。
『映画を早送りで観る人たち』を読んで、あらすじを読むことについて考えさせられたので、この本を手に取ってみました。世界文学を少し教養として知っておこう、という目的です。
結果、あらすじ本というよりも、まったく逆の本読みの熱量だらけの本でした。
あらすじを書くというよりも、著者が感じたことを言葉にしている本です。
本を読むことで著者に勝手に湧き上がってくる思考を、どんどん言葉にしてまとめています。
教養を得ようと思った私をぶっ潰して、「とにかくこんなことを考えたよ!」という至極まっとうな本の読み方に圧倒されました。
『映画を早送りで観る人たち』では、映画を倍速視聴する理由の一つを「まわりの話についていくため」と説明しています。
『やりなおし世界文学』では、そういった知識としての理解ではなく、名作を読んで湧き上がってくる著者の鑑賞力に圧倒されます。
感情を動かす「作品鑑賞」と、知識を得る「コンテンツ消費」。
「作品鑑賞」の立場では、倍速はありえないし、「コンテンツ消費」の立場では、とにかく「わかりやすさ」が求められます。
目的次第でどちらの方法もありだと思いますが、その2つの兼ね合いについて考えることのできる2冊の本です。
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