ゴールデンタイムの消費期限(斜線堂有紀)の次に読む本

あらすじ

国の主導する「レミントン・プロジェクト」に招かれた元・天才たち。そのプロジェクトは、若くして天才ともてはやされたが、今では世間から見放された彼らの、才能の「リサイクル計画」だった。元・天才小説家の綴喜文彰のほか、料理人、ヴァイオリニスト、映画監督、日本画家、棋士と、ジャンルの違う5人が、人工知能「レミントン」とのセッションや、天才たちと共に過ごす時間を通して傷つき、傷つけ合いながらそれぞれの道を模索していく。

ふくきつね
ふくきつね

タイトルにもある「消費期限」のほか、「リサイクル」「天才はコンテンツ」など、天才たち本人までもが自分の存在を「モノ」「商品」として扱うことに驚き、少しの不快感を覚えました。ただ好きだっただけのはずなのに、周りから「才能がある」「天才」ともてはやされ、見世物にされていくそれぞれの人生。その人生は、周りが好き勝手に作ったものだから当然、本人たちは苦しみ、逃げ出したくなります。それぞれの苦しみが明かされ、共に時間を過ごし変わっていく彼らに、読み進めるほどページを捲る手が速くなっていきました。綴喜の母がかつて言った、「痛いって言葉も怖いって感情も、本当はあなたのもの」という言葉を、綴喜は本当の意味で理解できたのではないかと思いました。

次に読む本

さよならドビュッシー(中山七里)

親から過剰な期待をされ、ピアノを続けていた香月遥。祖父と従姉妹と共に家事に遭い、全身を大火傷しながらも1人生き延びる。周りからは好奇・嫉妬の目を向けられ、身体の痛みと戦いながらもコンクール優勝に向け、ピアニストの岬の過酷なレッスンに食らいつく。そんな遥の身に、次々と不穏な出来事が起き、更には母親までも亡くしてしまう。事故か殺人か、捜査が難航している間に、コンクールの日を迎える。美しく残酷なミステリー。

ふくきつね
ふくきつね

人の人生は、周りの声に歪められていくのかもしれません。しかしこの物語の主人公は、周りの声にも、身体の痛みにも負けず、過酷なレッスンを受け確かな実力を身に付けていきます。そこには、「才能」という言葉では片付けられない強い意思があります。人生がピアノ、親の期待、周囲の好奇・嫉妬で歪められていく主人公の、怒りや憎しみ、悲しみ、やるせなさといった感情が、美しい調べの文体と共に雪崩れ込んでくるように感じました。

ふくきつね
ふくきつね

「才能」というものは、周囲、世間が造り上げた虚構なのではないかと、『ゴールデンタイムの消費期限』を読んで感じました。天才と呼ばれた主人公たちの葛藤に触れて苦しくなる度に、より強くこの感情を抱いた『さよならドビュッシー』を思い出しました。「才能がある」と周りにもてはやされ、自分の人生が歪んでいくことに苦しみながらも戦うことを選んだ、「天才」の1人にスポットを当てたような作品です。『ゴールデンタイムの消費期限』で天才たちの苦しみを感じた後に、1人の人間の苦しみに深く入り込んでみるのはいかがでしょうか。




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