あらすじ
本にまつわる9つの短編集。違う場所で何度も同じ本に出会ったり、同じ本でも時を経てから読み返してみるとすごく面白く感じたり全く違う印象を持ったり、本を読むことがもっともっと好きになりそうな物語ばかり。読書の醍醐味が存分に描かれていて本好きには共感のポイントが多いはず。角田さんの読書論が詰まったあとがきの、本との相性の話も印象的で、最初から最後までたっぷり楽しめる1冊。
以前はあまり再読ということをしたことがなくて、ストーリーが分かってしまえばもう読まなくていいやと思っていたんですが、読書ってそんなに浅いものじゃなかった!と少し前に気付いてからは読書がますます面白くなりました。「本は開くだけでどこへでも連れて行ってくれる」という言葉のように、旅にも連れて行ってくれます。読んでいる途中で「これを読みながらこんなこと考えたな」とか「これを読んでた時こんな出来事があったな」と昔の自分に出会ったりすることもあって、読書って本当に不思議な体験です。手元に置いて、何度も読み返したい作品です。
次に読む本
三月は深き紅の淵を(恩田陸)
読書好きが集まる会長の別宅に招待された男は、屋敷内にあるはずだが見つからない「三月は深き紅の淵を」という赤い表紙の本の話を聞く。幻の本の内容を語られる第一章「待っている人々」、作者を探しに電車で女二人旅をする第二章「出雲夜想曲」、ある事件が起こり本を書こうとする第三章「虹と雲と鳥と」、まさに今書き始めている第四章「回転木馬」。第四章まで全て「その本」が出てくるのに、それぞれの話で本の立ち位置が違っていて、本の謎の深みにはまる。物語の終わりは「黒と茶の幻想」の書き出しに続く…。
読めば読むほどくせになる独特な世界観。冒頭の本好きが集まるお屋敷に向かうその描写だけでもそわそわどきどきして、知的な会話に好奇心がそそられます。作中作の「三月は深き紅の淵を」の内容と、この作品の内容が少し重なるようで異なっていたりして、「三月は深き紅の淵を」とは一体どんな物語なんだ??と混乱だらけでどんどん深みにはまっていきます。一度読んだだけでは到底理解しきれなくて、何度も読み返して少しでも多くのものを感じ取りたいと思う味のある物語です。この作品の関連作もあるので続けて読むとより楽しめると思います。
「さがしもの」で本との出会いが物語になっているように、私にとっては「三月は深き紅の淵を」がかけがえのない出会いでした。興奮して読む手が止まらなくて、何度読んでも新たな発見があり、読むたびに印象が変わる、そんな本と出会えたことが嬉しいです。どちらも究極の「本のための物語」だと思います。本好きな方へ、おすすめです。
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