あらすじ
著者の24歳から47歳までの23年間を綴った、全92編からなる随筆集。
20代、30代、40代と世代ごとに章が分かれて構成されています。
本書は、日常の中で著者が体験した出来事を、飾らず率直に綴った一冊。
結婚・転職・病気・介護など、各世代で訪れるさまざまなライフイベントが描かれています。
ときには幼少期や学生時代の記憶まで遡り、自身の人生を静かに振り返る場面もあります。
行動的で多趣味な著者は、人とのつながりの中で多方面の挑戦を重ねてきました。
英会話や資格取得などの習い事、社会福祉やボランティア活動などのエピソードも豊富。
また、東日本大震災やコロナ禍といった時事にも触れながら、時代を生きたリアルな記録としての側面も持つ一冊です。

本書を読んで、まず心を打たれたのは、著者の圧倒的な行動力です。
現在カウンセラーとして活躍されている著者は、社会福祉やボランティア活動に携わるなど、他者との関わりを大切にしてきました。
さらに、習い事やサークル活動にも積極的に参加し、多方面にわたる出会いと教養を深めています。
人見知りでシャイな私にとって、そんな著者の行動力、順応性、そして人から好かれる人柄は、尊敬に値するものでした。
本書では、日常で感じたことや出来事が、ありのままの言葉で綴られています。
時にはクスッと笑えるようなエピソードもあり、肩の力を抜いて読める親しみやすさも魅力のひとつです。
一方で、著者は多くの困難にも直面しています。
ペットや大切な人との出会いと別れ、闘病、介護、交通事故など、波瀾万丈ともいえる人生の一場面が描かれています。
とくに印象的だったのは、第21節「心の健康」で語られる精神的なセルフケア。
著者が困難を受け入れ、前を向くために大切にしてきた姿勢が、表れています。
本書の中で私が1番好きだったのは、第16節「我が家の味」。
母の味、自分で身につけた味、夫の味、義母の味。
この4つの味が融合し、「家庭の味」になっていくというテーマに、家族の温かなぬくもりを感じました。
また、作中には数多くの映画作品が登場。
その時代に流行した映画の記憶が呼び起こされ、読みながら懐かしさに浸れるのも大きな魅力のひとつです。
1話あたり数分で読めるので、寝る前や気分転換の時間にぴったり。
「誰かの日常をそっと覗いてみたい」そんな気分のときにおすすめの一冊です。
次に読む本
津村記久子「水車小屋のネネ」
家庭の事情で家を出ることになった姉妹。
高校を卒業したばかりの18歳の姉・理佐は、小学生の妹・律を連れて、二人きりの暮らしを始めます。
理佐が選んだ仕事は、親元から離れた蕎麦屋。
なんとその蕎麦屋では、蕎麦粉を挽くための水車小屋で、「ネネ」という鳥が飼われていました。
ネネは、50年以上生きるといわれる「ヨウム」という種類の鳥。
言葉を話し、歌い、人に寄り添うネネは、姉妹をあたたかく迎え入れてくれます。
本書は、姉妹とネネが紡ぐ40年間の軌跡を描いた、心あたたまるハートフル小説です。

本書は、「当たり前の日常こそが幸せ」と感じさせてくれる、心あたたまる小説でした。
物語には、特別に大きな事件が起こるわけではありません。
それでも、姉妹とネネ、そして地域の人々がともに歩んでいく40年という時間の流れが、静かに丁寧に描かれています。
姉妹は長い年月のなかで、たくさんの出会いと別れを経験します。
喜びや悲しみ、嬉しさや切なさも、すべてがひと続きのものとして、穏やかに描かれているのが印象的でした。
「助けられた」と感じた出来事が、実は自分が誰かを支えていた──
そんな優しさの連鎖が、じんわりと広がっていく物語でもあります。
特に心に残ったのは、姉妹のそばに寄り添うヨウムのネネの存在。
賢く明るく、家族の一員のように年を重ねていくネネの存在が、物語全体をやわらかく包み込んでくれているように感じました。
物語は、私が生まれるより前の時代から始まります。
登場する時事ネタを調べながら読み進めるのも楽しく、年配の方なら懐かしく振り返りながら読めると思います。
一方で、子どもたちにとっては、かつての日本の空気を感じるきっかけにもなりそうです。
読了後には、なんだか無性に、美味しいお蕎麦が食べたくなりました。
おススメポイント

今回選んだ2冊は、いずれも昭和から平成、令和へと移りゆく時代の流れを背景に、「人生の歩み」を描いています。
『波紋を掬う』は随筆集、『水車小屋のネネ』は小説で、形式こそ異なりますが、それぞれに当時の雰囲気や暮らしの温度が味わえます。
どちらも時代を追体験できる一冊です。
また共通して印象的なのは、当時の空気感を感じさせてくれるメディアの描写です。
『波紋を掬う』では、著者が鑑賞した映画が随所に登場します。
放映当時を思い出し、久しぶりに鑑賞したくなりました。
『水車小屋のネネ』では、ネネが口ずさむヒットソングが物語にやさしく流れ込みます。
姉妹の人生とともに、音楽が時の流れを刻んでいくようでした。
さらに2冊には、「互助の力(=支え合い)」という共通のテーマがあります。
家族や友人とのハートフルな交流が多く語られていますが、社会問題にも触れている2冊。
ネグレクトや虐待、病気と老い、移民の問題、いじめ、マイノリティ、災害、コロナ禍の生活などの現実問題も顔を出していました。
そのような辛い現実の中で、救いの手を差し伸べるのが「互助の力(=支え合い)」です。
『波紋を掬う』では、著者が日本語ボランティアや手話サークルなど、社会福祉の現場で人と関わっていく様子が描かれます。
また、著者自身が病気や事故、災害など困難に直面したときには、周囲の人々からの温かな支援を受けるシーンも多くありました。
「助け合う社会」の姿が浮かび上がります。
『水車小屋のネネ』は、親元から離れて暮らす若い姉妹を地域の人々が支え、育てていく物語。
40年間にわたって続く「人とのつながり」が物語の軸となっています。
互いに寄り添い、見守り合う人々の姿は、読む人の心にも優しく響くはずです。
世代を問わず、心に残る2冊。
あなたの人生を振り返りつつ、時代を生きた人たちの声に、静かに耳を傾けてみるのはいかがでしょうか。
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